映画『ノーマル・ハート』感想 ネタバレあり

映画

襲いくる謎の伝染病、ゲイに対する偏見や無関心、そんな時代を生き抜く男達の愛の物語

映画情報

本作は、1985年からオフ・ブロードウェイで公演された同名の舞台の映像化です。

  • 『ノーマル・ハート』
  • 放送日 : 2014年11月25日(スターチャンネル)
  • 原作・脚本 : ラリー・クレイマー
  • 製作総指揮 : ライアン・マーフィー
  • 監督 : ライアン・マーフィー
  • 製作 : スコット・ファーガソン
  • 撮影 : ダニー・モダー
  • 編集 : アダム・ペン
  • 音楽 : クリフ・マルティネス
  • 出演者 : マーク・ラファロ、マット・ボマー、ジュリア・ロバーツ、テイラー・キッチュ、ジム・パーソンズ、アルフレッド・モリーナ、B・D・ウォン、ジョー・マンテロ、ジョナサン・グロフ他

主演を務めたマーク・ラファロ、そしてプラッド・ピットも製作総指揮に名を連ねています。

あらすじ

ジャーナリストのネッド・ウィークスは、友人達が病に倒れている現状に危機感を覚え、治療に取り組んでいた医師のエマを訪ねる。現時点では、治療法がないと知らされた彼は、事態の深刻さを訴えるが、誰も聞く耳を持たない。そんな中、ネッドはニューヨーク・タイムズの記者であるフェリックス・ターナーと出会い、二人は恋に落ちる。

ネタバレなし感想

まず、観始めた第一印象は、マーク・ラファロやジュリア・ロバーツといった名俳優達が出演しているのに、なぜ私はこの作品のことを知らなかったのだろうと。

というのもこの作品は、映画ではなくスペシャルドラマとして放送されたため、日本での知名度は残念ながら低い。かくいう私も、鑑賞するまで名前すら知りませんでした。お恥ずかしい。エミー賞テレビドラマ作品賞にも輝き、10年に一度の傑作とも呼び声の高い本作を観た上で、感想をお話ししていきたいと思います。

無知や無関心というのは、一番残酷なことなのかもしれない。声をあげても届かない。そして、愛する友人や恋人が目の前で命を落としていく。もし、自分の友人なら?大事な人なら?そう考えると性別なんて関係ない

主人公のネッドは、真っ直ぐです。嫌になるくらい直球で、仲間想いで、そして逃げずに闘うことを信念としています。しかし、彼は弱さが怖いとも語っていました。強く生きていかなければならないと。強く我を保ち、そして行動し続けることで、鎧を纏い、自分の弱さを曝け出さないようにしている。そんな風にも見えました。

この作品に登場する人物それぞれが苦しみを抱えていて、観ている内に彼らが役者であるということも忘れて観入ってしまう。そんな迫力がありました。当時の時代背景や歴史、人々の絶望感や混乱。重く辛い作品ですが、最後には悲しみだけじゃない愛の物語でもありました。

ネタバレあり感想

ここからは、ネタバレを含みますので、ご注意くたさい。

謎の伝染病

“命と引き換えの行為”

リゾート地へ降り立ったネッドを迎えたのは、友人のクレイグ。演じていたのはジョナサン・グロフ、ディズニー「アナと雪の女王」のクリストフ役やデヴィッド・フィンチャー監督が手掛けた「マインドハンター」にも出演しています。ブロードウェイミュージカルでの活躍も馴染みがありますね。クレイグは自分の誕生日ですが、目眩を訴え、どこか調子が悪そうです。

ゲイの間で流行っている病があると、新聞記事を読んだネッドは、医師であるエマを訪ねました。エマを演じていたのが、ジュリア・ロバーツです。

https://eiga.com/movie/95134/

表情の起伏があまりなく、どこか無関心のようにも思える彼女。しかし、真摯に患者に向きあい危険を訴える姿や、自らも病気を患っている心の傷。そこから感じる繊細さにも説得力があり、医師としてのリアルで絶妙な役作りが素晴らしかったです。

この病気は免疫を破壊し、死に追いやる。また、感染経路はセックスだと聞かされたネッド。命と引き換えの行為であると訴えるエマ。その時、緊急で担ぎ込まれた患者がいました。クレイグです。クレイグは、痙攣麻痺、鼻血、泡を吹き、亡くなりました。

集会で、伝染病が流行っていること、感染経路の説明をしても、自分達には関係ないと聞く耳を持ちません。その上このことが広まれば、ゲイであるというだけで疎まれている今の状況、更に厳しい目で見られると怪訝を示す人達も。

所変わって病院では、次々と患者が運ばれてきます。エマは、防護服を着けずに患者と接していました。患者には、体中に赤黒い斑点が発症、得体の知れない病気、ゲイコミュニティ内での感染ということもあり、職員が部屋に入りたがらず、テレビを修理に来た修理業者も感染を恐れ、修理を拒否するなど厳しい状況です。

政治との闘いと分裂

一方ネッドは、GMHC(Gay Men’s Health Crisis)を設立し、自らが仕切って導いていこうとします。しかし、会長として白羽の矢が立ったのはブルースでした。ブルースは、亡くなったクレイグの元恋人であり、またハンサムだからみんな言うことを聞くだろうという理由。ネッドの”高校かよ”というツッコミに

全員の”YES !”

このやりとり笑っちゃった🤣

市長へ面会を要請するも断られ、政府はこの状況を黙認している始末。この病気を利用して、ゲイを根絶やしにしようと画策しているとネッドは反発する。政府に対する批判や過激な発言が目立ってきたネッド。政府から補助を受けることを念頭に入れているブルース達は、ここで政府を敵に回すのは間違っていると言う。そして、ゲイを隠すメンバー達と、ゲイを公表し、真正面からぶつかっていくべきだと言うネッドとの対立関係が生じていきます。

病原体も不明、どうすることもできない現状にみんな限界が来ていました。ネッドの身勝手な行動は、不安を煽る蛮行であり、セックスに対する意識に罪悪感をつけた。として、GMHCから追放されることに。友人を、恋人を守りたい、という同じ目的だが、やり方や考え方が違うことで分かり合えない悲しさともどかしさがありました😢

ネッドが、第二次世界大戦で勝利に貢献した人物として、アラン・チューリングを挙げられていました。彼は、後にゲイであることを責められ、自ら命を断ちます。ベネディクト・カンバーバッチ主演で映画化もされていましたね。こちらも、素晴らしい作品でした。

最終的に、レーガン大統領がAIDSを最優先事項としたのは1985年のこと。1981年の発覚以降、3600万人の若者の命が失われました。そう考えると、やるせない気持ちになります…

恋人フェリックス

“男にも愛する心はある”

ネッドは、ニューヨークタイムズのフェリックス・ターナーに会いに行きます。危機感を煽るために、彼に記事を書いてくれと頼みます。このフェリックスを演じていたのが、マット・ボマー。「ホワイトカラー」のニール・キャスリー役や、「Glee」にも出演していました。ライアン・マーフィー監督製作の「ボーイズ・イン・ザ・バンド」と言う作品にも出演していましたね。

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その後、フェリックスがネッドの自宅を訪ねてくるのですが、この辺りのそわそわドギマギマーク・ラファロ可愛いです。実は、以前会ったことがある二人。その時はお互い体だけの関係でしたが、今からやり直そうと正式にお付き合いをすることに。

最愛の相手を見つけた。本当にそう思えるくらい幸せそうな二人。しかし、悪魔の足音がすぐ近くまで…そう、フェリックスが感染してしまうのです。こういう嫌な予感は的中してしまう😢

マット・ボマーは、この役のために大幅減量。AIDSによって衰弱していく姿を見事に演じ切りました。ゴールデングローブ賞助演男優賞も受賞しています。今作は、彼の作品と言っても過言ではないと思います。彼の若さ、吸い込まれそうな美しさ、未来に希望を持つ若者の悲痛な叫び、彼の俳優としての覚悟や本気を感じられる作品となっています。

親友ブルース

ネッドの友人であり、GMHCの会長となったブルース。彼にも、悪魔が忍び寄ります。恋人であるアルバートがAIDSに感染。これでクレイグに引き続き3人目となります。ブルースは、ショックのあまり泥酔。おぼつかない足取りのブルースをネッドが介抱することになり、距離が近づく二人。”今は恋人がいる。もし、これがもっと昔だったらな“というちょっぴり垣間見える未練と、それでも親友という位置にある二人の信頼関係が感じられ、儚くも尊いシーンでした。

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右がブルース↑

そして、このブルースの恋人アルバートの最期がとてつもなく残酷でした。

命尽きる前にアルバートの母親に会いに行こうと飛行機に搭乗する二人。一度は拒否されたが、パイロットが交代したことで、無事に離陸。しかし、アルバートが錯乱してしまう。到着後、病院に直行したが、その場で亡くなってしまいました

母親は息子と言葉を交わすこともできず、病院は死因を突き止めることも、死亡証明書の発行さえしません。証明書がなければ葬儀もできない。その上、ゴミ袋に入れて運び出される。この時の母親の泣き叫ぶ姿が、今思い出しただけでも苦しいです…でも、このシーンがあることで、当時はこんなことが実際にあったのだろうと想像にたやすく、現実を突きつけてくる残酷な一面でした。

兄と弟

“心の底では僕のことを病気だと思っている”

ネッドは、兄にも協力を要請します。兄は弁護士であり、権力や地位も確立していることから、役員に入ってほしいと説得をするが、イメージが悪いと拒否されてしまいます。兄は弟のことを愛しているし、心配もしている。だが、兄は弟を同じとは言えない理解ができないのだ。ネッドは言いました。”心の奥ではまだ僕のことを病気だと思っている” “兄貴のいる世界が敵に見える”と。ここで、完全に仲違いをしてしまいます。この辺りは、ネッドがGMHCを追い出されたりと辛い時期と重なるため、彼がとても孤独に感じました。

兄のベンを演じていたのは、アルフレッド・モリーナです。サム・ライミ監督「スパイダーマン2」のドクター・オクトパス役が有名ですね。私もドクオク大好きなので、彼の出演は嬉しいところ☺️

絶縁状態のネッドに見かねて、恋人であるフェリックスが兄の元を訪ねてきます。もう自分は長くない。財産をネッドに渡したいのだと。

“フェリックス、もっと早く会いたかった”

この言葉。そして、病院に駆けつけたネッドを、兄は謝るかのように強く抱き締めます。二人がやっと分かり合えた瞬間、私の涙腺が崩壊しました

病室のベッドで、兄の立ち合いの元、二人は愛を誓い合いました。そして、フェリックスは息を引き取ります。ネッドは、フェリックスと約束したゲイ・ウィークにたった一人で来ていました。ダンスを楽しむ恋人達を悲しそうに見つめるシーンで幕を閉じます。

最後に

悲しく辛い物語ではあるのに、最後には、どこか救いや穏やかさも感じる謎の感覚に陥りました。おそらく私が感じたのは、愛することはとことん美しいということ。それが、観終わった後の穏やかさに繋がったのかなと思います。

そしてとにかく、役者達の体当たりの演技が本当に凄まじかった。マークは、ストレートの自分がゲイの役を演じることに躊躇していました。しかし、監督の説得の甲斐あって出演が決定。彼は、どの役も自然と馴染む不思議な魅力がありますね。

ジョー・マンテロ演じるミッキーの怒りが爆発するシーンも印象に残っています。また、ジム・パーソンズ演じるトミー。最初は、いけ好かないヤツかと思いきや、優しく友人思いな繊細さんでした。

また、AIDSの描写をここまで真正面から描いている作品は、あまり出会ったことがありません。他の作品で知ったつもりでいましたが、想像を絶する過酷さでした。とても見応えのある、観る価値のある作品です。

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