銃乱射事件で息子を亡くした父親。悲しみに暮れる父親が見つけたのは、生前の息子が綴った曲の数々だった。
もし、すでに興味があるなら、ここで引き返して映画観てくださいね!
映画情報
- 『君が生きた証』
- 公開日 : 2015年2月21日(日本)
- 監督 : ウィリアム・H・メイシー
- 脚本 : ケイシー・トゥウェンター、ジェフ・ロビソン、ウィリアム・H・メイシー
- 制作 : キース・キャラヴァル、ブラッド・グレイナー、ジェフ・ライス
- 音楽 : イーフ・バーズレイ、サイモン・ステッドマン、チャールトン・ペッタス、フィンク
- 撮影 : エリック・リン
- 編集 : ジョン・アクセルラッド
- 出演者 : ビリー・クラダップ、アントン・イェルチン、フェリシティ・ハフマン、セリーナ・ゴメス、ローレンス・フィッシュバーン、マイルズ・ハイザー、ジェイミー・チャン他
あらすじ
やり手の広告マンのサムは、大口の契約を結ぶことに成功する。そのお祝いをしようと、大学生の息子ジョシュとランチの約束をするが、いつまで経っても彼は来ない。その時、テレビからニュースが聞こえてきた。それは、ジョシュの通っている大学で乱射事件が起きたというものだった。
ネタバレなし感想
息子が書いた曲を演奏することで、息子を近くに感じる。悲しく、辛く、複雑で想像を絶する痛み。
この作品は、観始めた時と観終わった後の印象がガラッと変わる作品です。だからこそ、ぜひ、最後まで観て判断してほしい。どう感じるかはあなた次第。心を手のひらで転がされたり、握りつぶされたり、突き放されたり。意外性をつく展開、そして感情が迷子になる斬新な作品でした。
その誰かは誰かの親であり、息子であり、娘であり、友人であり、かけがえのない人物。それは何があっても揺らぐことはない愛。
また楽曲がとても心地よく、キャッチーです。ビリー・クラダップ、アントン・イェルチン、マイルズ・ハウザーなどの声も良く、口づさみたくなる楽曲ばかりでした。
面白いと言える作品ではないですが、興味深い作品ではありました。
そんな複雑で、言葉では言い表せられない感情にさせてくれる作品、私は好きです。
ネタバレあり感想
ここからは、ネタバレを含みますので、ご注意下さい。
悲劇
物語は、ジョシュの弾き語りから始まります。大学の寮の部屋。1人レコーディングをしているジョシュ。すると扉が開き、生徒にレコーディングの邪魔をされてしまいます。
場面は変わり、父親のサムは大口の契約を結び喜んでいます。祝杯をあげようとジョシュに電話をするが、ジョシュは乗り気ではありません。学校をサボれというサム、友達のような提案をする父親好きです😆
そしてその後、乱射事件を知ることになります。
ジョシュとのお別れの時、葬式に姿を見せた少女がいました。彼女はジョシュの元彼女でお悔やみを伝えに来ました。
その後、サムの生活は一変。報道陣が葬式や自宅にまで押し寄せ追い回します。なんてプライバシーのないメディアなのだろう。被害者の悲しみが理解できないのかと怒りに震えるばかり。悲しみに暮れ、酒に溺れ、自暴自棄になるサム。
それから2年の月日が経ち、サムは、ジョシュの死を受け入れられず、別の街で暮らしていました。以前とは印象も変わり、塗装作業の仕事をしています。そんなある日、元妻が息子の遺品を持ってきました。サムは、その遺品をゴミ箱へ投げ入れようとするのです。あまりの辛さに息子を忘れようと、遠ざけようとしているんだと。そこで、ジョシュの遺したCD-Rとメモを見つけます。
泥酔のサム、酔った勢いもあり、とあるライブバーで息子の遺した曲の弾き語りをします。
すると、見知らぬ青年クエンティンが曲に感動し、一緒にやろうと声をかけてきます。徐々に仲良くなる2人でしたが、過去に何があったのか、曲は誰のものなのか、サムは明かそうとしません。
https://eiga.com/movie/81390/
サムは、クエンティンや他のメンバーと共に、Rudderless(舵のない)というバンドを始めることに。これは原題のタイトルでもあり、サムの前にも後ろにも進めないこの状況を指していると思います。そして、このことで息子の元彼女から作曲者を明かしていない状況を非難されてしまいます。息子の曲を自分の手柄にしているから怒っているのか。この時は、そう思いました。
どんでん返し
正直、観ている最中は、感想を書くほどでもないかもしれないと思っていました。しかし、この作品にはこの後、大きな仕掛けがあるのです。
息子ジョシュは、銃乱射事件の被害者ではなく、加害者だったのです。
https://eiga.com/movie/81390/
この事実は、息子のお墓参りのシーンで明かされます。ジョシュのお墓には、たくさんの落書きが、、、この瞬間、わたしは理解が追いつかず、!?!?となっていました笑
真相を知った上で思い返すと合点がいきます。
- 詰め寄せる報道陣
- なぜ息子の遺品を捨てようとするのか
- なぜ曲の出所を明かさないのか
- なぜ息子の元彼女から非難されるのか
どんでん返しに騙された!という面白さもありつつ、なんとも言えない複雑な心境。
いつか秘密は明かされるもの。ジョシュの元彼女から、クエンティン達に真実が明かされます。彼女も殺人犯と関係を持ったとして、冷ややかな目線を浴びたり、無遠慮な質問に悩まされていました。クエンティン達も、何人もの命を奪った人物の曲を弾くことは間違っていると言う。サム自身、間違っていると感じながらも息子を愛し、彼の遺した曲を演奏することが罪なのか、愛することは罪なのか葛藤するのだ。
向き合う覚悟を決めたサム。大学の慰霊碑の前で泣き崩れる姿はとても痛々しい。慰霊碑には亡くなった生徒達の名前は記されているが、息子の名前はないのだ。
サムは、クエンティンに言います。音楽を辞めるなと。他人に指図される人生にはするなと。
そして、最後に歌う。息子よ息子よ、一緒に歌えたらいいのにと。他の者からは、ジョシュは加害者であり、殺人犯でしかないのだ。しかし、サムにとっては、たった1人の大事な息子。
クエンティン
クエンティン役は、今は亡きアントン・イェルチン。27歳という若さでこの世を去った彼。彼の歌声をもう聴くことができなくて悲しい。彼を初めて見たのは、クリミナル・マインドという海外ドラマのシーズン2の第11話。そのエピソードは、いまだに鮮明に覚えている。彼の演技や存在感は唯一無二だったように思います。
楽器屋のデル
個人的に、一番の理解者であり、良心的で、唯一サムをサムと見ていたのは、楽器屋のデルではないでしょうか。彼は最初からサムの正体に気づいていました。インパクトのあるキャラクターではないのですが、優しく見守っている感じがとても心地よく、優しさが染み入るようでした。ローレンス・フィッシュバーンのそこにいるだけで感じられる安心感抜群。
息子ジョシュ
最後にもう1人、謎の人物がいます。息子のジョシュは人間性や性格など何も描かれていません。友達はいなかったのか、怒りを抱えていたのか、進路に迷っていたのかなど、全くわかりません。しかし、歌詞を聴くと彼の何かを感じ取れるような気もします。彼が何を感じ、何に抗い、何に悩み、何から逃げようとしていたのか。しっかりと描かれてはいないのですが、曲自体が心の叫びのように思えてきます。
お気に入りの曲
Real Friends
この曲は、サムとクエンティンが初めてステージ上でデュエットした曲です。サムのソロから始まり、クエンティン、そしてドラムへと続く。この一つの音がたくさんの音と重なり、音楽になっていく過程がすごく好きです。目を見合わせて楽しそうに歌っている姿も微笑ましい。ほんの少しの間、重荷や重圧から解放された瞬間の表情が垣間見えます。
最後に
加害者視点という珍しい作品ですが、ユニークで今までにない視点、そしてポップで心地のいい楽曲の数々、味わったことのない苦さというか、とても不思議な感覚と、心を抉られるような切ない音楽映画でした。