この記事には、ネタバレが含まれますので、ご注意ください。
シェアードユニバース!それを抜きにしても上質なミステリーと社会問題を浮き彫りにする人間ドラマに最高の満足感!
作品紹介
「アンナチュラル」と「MIU404」に継ぐシェアードユニバース!
- 『ラストマイル』
- 公開日 : 2024年8月23日
- 監督 : 塚原あゆ子
- 脚本 : 野木亜紀子
- プロデューサー : 新井順子
- 制作総指揮 : 那須田淳
- 共同プロデューサー : 八尾香澄
- 撮影 : 関毅
- 編集 : 板部浩章
- 音楽 : 得田真裕
- 出演者 : 満島ひかり、岡田将生、大倉孝ニ、酒向芳、ディーン・フジオカ、火野正平、宇野祥平、安藤玉恵、丸山智己、阿部サダヲ…他
主題歌『ガラクタ』は、アンナチュラル・MIU404に引き続き、米津玄師により作曲されました。弱者に寄り添う優しい楽曲になっています。
あらすじ
11月に開催されるビッグイベント”ブラックフライデー”。その前夜、羊急便から配送された荷物が爆発する。爆発物は、大手ショッピングサイト”デイリーファスト”が取り扱っていた商品だった。事件の翌日、デイリーファストの物流センターに新しく舟渡エレナがセンター長として赴任してくる。次々と起こる爆破事件、エレナとチームマネージャーの梨本はこの未曾有の事態の収集にあたる。
ネタバレなし感想
連続爆破事件、これはテロか、犯人の目的は一体何なのか。仕掛けられたミスリードや全ての伏線、トリックなどが綺麗に回収され、パズルのピースがはまっていく気持ちよさがありました。お見事!の一言につきます。
物流に関する用語や仕組み、登場人物の多さも相まって複雑な作品でもあると思いますが、しっかり整理されていて、かつ、どの要素も邪魔をし合っていない。「アンナチュラル」や「MIU404」のチーム達が過度に主張はしておらず、上手く混ざり合い、その世界線のお助けキャラのような立ち位置のバランスが絶妙です。
あくまでこの作品は、この世界で働く人々の物語。ネット通販の需要の高まりに応じて不足するドライバーや劣悪な労働環境、上層部と事業所の間で板挟みになる管理職など、もちろん流通に関する作品であると同時に働く人々全員の物語であるというところが肝でした。
ミステリー、サスペンスそして、社会性を盛り込んだ人間ドラマ、プラス・エンターテイメントとしても楽しめる作品になっています。
ネタバレあり感想
事件の真相
デイリーファストの社員だった山崎佑。彼は自身のロッカーに2.7m/s→70kg→0と書き残し、上の階からベルトコンベアに飛び降りた。このロッカーに残されたメモ、2.7m/sはベルトコンベアの速度、70kgは重量制限を意味します。山崎は、自身がそのベルトコンベアに落ちることで重量を超過させ、システムを停止させようとしました。しかし、ベルトコンベアはものの数分で動き始めます。それを目の当たりにした山﨑の驚きと絶望の表情が印象的でした。
植物状態になってしまった彼は、事故直後に馬鹿なことをしたと言い残しています。それほどまでにプレッシャーに苛まれ、過労により正気を失い、正確な判断ができないほど追い詰められていたのでしょう。デイリーファストはこの事件の責任を取らず、恋人のせいにしました。
この連続爆破事件の真犯人は、山崎の恋人・筧まりかでした。彼女は、自分の罪は自分で贖うと言います。では、社会や世界が見放した罪の責任はどこにあるのか。彼女は世界に復讐と贖いを求め、実行したのでしょう。もしくは、彼女もこの憎いシステムを停止させることで山崎からの許しを得たかったのかもしれません。自分への贖いと世界への復讐。しかし、一人の人間の死では、何も変わらない。次々と起こる爆破事件で何人もの負傷者が出てもシステムは止まりませんでした。なんとも悲しく苦い結果です。
12個の爆弾
どこでどうやって爆弾が荷物に仕掛けられたのか。筧まりかは、12個の爆弾を仕入れました。それからブラックフライデーの10日前にデイリーファストから11個の商品を購入。その商品に爆弾を仕掛け、物流センターの荷棚へ戻す。土日祝と日雇いで働いていた彼女には簡単なことでした。
12個の爆弾のうち、不具合のある爆弾が一つ。そして、彼女はそれを自分に使いました。山崎のように自身の命を犠牲にこの世界の不条理を訴えたかったのかもしれない。それと同時に、これから起こる爆破事件で犠牲になる人々へ顔負けできない一心もあったのではないかと思いました。
舟渡エレナと梨本孔
舟渡エレナに関しては、ミスリードが上手かったです。まさに信用できない証言者、事故による転落防止措置を提案している梨本に対して飛び降りないようにと発言したり、山崎佑の記録を削除したりと明らかに怪しい。梨本に追求されているシーンでも、何か確信を突かれたかのような表情と緊迫感。(しかも写真の女性は、エレナ演じる満島ひかりさんに絶妙に似ている!笑)しかし、そこでまさかの爆弾を引いてしまう悪運の持ち主。ここは、ドキドキハラハラしましたね!彼女は福岡からではなく、アメリカの本社から派遣されてきました。時差ボケと言っていたのも納得。彼女も多忙により、精神を病んでしまい、眠れない日々を送っていました。3ヶ月の休養を経て、復帰したのがこのセンター長としての仕事。そんな彼女だからこそ、ロッカーの数字を見て、山崎のしようとしたことに気付き、泣き崩れたのでしょう。追い詰められた人間は、正常な判断ができなくなる。誰か手を伸ばして挙げられる人がいなかったのかと悔いるばかりです。
梨本孔は、2年目のチームマネージャー。彼には、楽を求める現代特有の無気力感のようなものを感じました。平穏な日常を維持すること、そして責任を負うことへの怠惰感。そんな彼が事件を追う中で、エレナとの信頼関係が生まれていき、最終的にはセンター長を任されます。最終的にエレナがけしかけたストライキにより、ドライバー達の給料が20円アップしました。しかし、それは微々たるもの。大きな組織の体制はそう簡単には変わらない。最後、彼がロッカーを見つめる表情は、彼も山﨑やエレナのような末路を辿っていくという恐怖や不安感の暗示なのかなと感じました。
佐野親子
この作品で感情移入できるのは、羊運送の委託ドライバー・佐野親子ではないでしょうか。父の昭は、不遇な労働環境にも文句を言わず、仕事に誇りを持つ哀愁漂うキャラクター。一方、息子の亘は勤めていた会社が倒産したが、自身の商品に誇りを持っています。しかし、現在の労働環境や賃金に不満を持っている。荷物を受けとってもらえない姿など、なんとも切ないシーンが続く中で、最後に家族を救うのがこの親子だという胸熱展開。影だった二人が日の目を見るどころかヒーローになったような、どこか報われたような気がします。ちなみに二人が話していた”やっちゃん”というのは誰だったのかな…
シングルマザー
委託ドライバーや派遣、日雇い労働などの賃金格差の他にも、シングルマザーとしての立場の格差を描いていました。今作は、色んな形での弱者を登場させ、全ての人に寄り添う作品になっていたと思います。
シングルマザーとして子育てに家事、仕事に追われ、おそらく家にいる時間は少ないのでしょう。娘からは冷たい態度を取られ、苦しい局面、娘が無断で何かをショッピングサイトで購入したことが発覚。ほしいものがあるなら私に言ってよ!と悔しさや悲しさが爆発する母親に子供達は母親の誕生日のためにプレゼントを購入したと話します。クソッ、泣ける…あ、クソって言っちゃった。このシーンは、終始緊迫する作品の中で、ほろっとさせてくれました。
毛利刑事と刈谷刑事
この二人は、登場シーンから笑いました!通行許可を貰わないと通れないのに警察手帳をマシンにピッとして入ろうとしている刈谷刑事を必死で止める毛利刑事。またロジスティクスが言えないなど、刈谷刑事は面白く可愛い姿が多くありましたね。毛利刑事は、いつも小言を言っているけれど、いざとなった時はカッコいいところを見せてくれるあたりが憎いキャラ。アンナチュラルやMIU404にも毛利刑事かっこいい〜というシーンがありましたが、今作もありました。舟渡エレナに聴取をしている際、山崎佑の名前を悩みもせず”やまさき”と発言したことを即座に気づき、指摘していました。やっぱりカッコいい!
MIU404
家族が多く集まるショッピングモールでの爆発にいち早く現場に駆けつけた機捜隊。陣場さんの相棒は、過去に虚偽通報事件を起こして捕まった勝俣奏太。あの頃は高校生でしたが、現在は立派に警察官となっていました。
伊吹藍のテーマ曲が背景で流れ始めた瞬間、”来るぞ、来るぞ”とワクワクして観ていました。もはや伊吹の通訳兼飼い主となっている志摩。相変わらず伊吹語録でみんなを困惑させるが、直感は衰えていない伊吹。走る伊吹をスクリーンで観たかった気持ちもありますが、今回の作品はあくまで”ラストマイル“であって、普段光の当たらない人々のための作品なのだろうと思います。
現に、最後の活躍を佐野親子に託している。それでも、家族の家の置配ボックスの暗証番号が「404」だったのには、ニヤッとせざるを得ない。間に合うのか、いや間に合わせてみせる!そんな機捜隊の意気込みや信念のようなものをたった三桁の数字から感じられました。
アンナチュラル
アンナチュラルでは、医大生のバイトだった久部六郎が東央医大の研修医となっていました。その病院こそが山﨑佑が入院している病院。そのことについて話を聞く伊吹と志摩、ここでアンナチュラルとMIU404がまた交わった!っとるんるん🎵してしまいました。
今回の爆破事件による混乱で、メディカル便の配達が滞ったことでバイク便に切り替わります。そのバイク便の中に白井一馬くんがいました!そのシーンは、え!?白井くんだよね?っと物語そっちのけで彼の顔を凝視してしまいました笑
アンナチュラル組が中盤あたりから登場するのですが、確信に迫るような役回りではありません。出演する意味は何なんだろうと疑問に思っていたその時、やってくれました。第一の爆発の被害者の遺体は、里中浩二という男性だと思われていました。そして、彼が唯一の死者とされていました。しかし、その遺体は犯人である筧まりかであり、里中から戸籍を買い、他人に成りすましていたのです。そして彼女は、加害者でもあり、第一の犠牲者ともなりました。「見上げた根性だ」と中堂は呟きます。恋人を殺害され、復讐の鬼と化していた彼の言葉。そして「そんな根性ならいらない」と呟くミコト。この台詞をこの二人に言わせることにものすごい重みがあります。たった少しの登場・台詞なのに、この世界にどっぷり浸った感覚になりました。
まとめ
何もしなかったことによる責任、便利な世の中の見えない落とし穴。何気ない行動の中で、裏で動いてくれている人達がいる。一人では無理でも、団結すれば変えられる。そう語りかけつつも、大きなことを変えることは難しいこの世の中。終わりの見えない答え、いや爆弾探しに右往左往する社会への警笛を鳴らす作品でもありました。
映画「ラストマイル」は、とても見応えのある社会派エンターテイメントです。ドラマを観ていなくても楽しめる内容になっていますので、気楽に映画館に足を運んでみてはいかがでしょうか?
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